⑥着床

体外受精や顕微受精をして胚移植をした後、この受精卵が着床してくれないと妊娠にいたりません。

そのため着床しやすくするように、着床を補助する方法があります。

それがアシステッドハッチング(AHA・補助孵化)とシート(SEET)法です。

~アシステッドハッチングは受精卵に処置をする方法~

受精卵は胚とその周りを覆っている透明帯によって構成されています。

体外受精や顕微受精の後、受精卵が胚移植されると、胚は受精卵の透明帯を破って外に出てきて、子宮内膜の中に潜り込みます。

これが着床です。

そして胚が透明帯を破って外に出てくることを、孵化とかハッチングと言います。

ところが胚の成長速度や年齢の影響で、受精卵の透明帯が厚く、硬くなっているケースがあり、そうなると胚が透明帯を破って外に出てこれなくなることがあります。

この場合は着床できませんから、妊娠不成立になってしまいますね。

アシステッドハッチングというのはこういったことを防ぐために、受精卵の透明帯の一部に切れ目を入れたり、薬剤によって透明帯の一部を薄くしたりすることです。

切れ目があったり、透明帯が薄くなったりしていれば、胚は外に出てきやすい=ハッチングしやすいですから、着床しやすくなるわけです。

妻の年齢が高い場合や、凍結杯を使った胚移植をする場合は、透明帯が厚くなるケースが多いらしく、アシステッドハッチングが有効な方法になるようです。

~2段階杯移植とシート(SEET)法~

自然妊娠の場合、卵管内で受精が行われると、受精卵は母体に信号を送って、母体が子宮に受精卵を迎える準備をさせるというメカニズムがあります。

ところが体外受精では卵管内での受精が行われないため、この信号が出ないことになります。

そこで、この「受精卵が母体に信号を送る」のを人工的にさせるために考えられた方法が2段階杯移植とシート法です。

2段階胚移植は多胎妊娠のリスクがある
体外受精をした後、まず最初の胚を移植し、その数日後に本命の胚を移植する方法を2段階胚移植と言います。

最初の胚移植は、受精卵が信号を出して子宮に「着床の準備をさせる」ことが目的です。

これによって子宮の準備ができたところに、本命の胚を移植することで、着床の確率を高めるというわけです。

ただこの場合、2つの胚を移植するわけですから、もちろん多胎妊娠のリスクを負うことになります。

一時期、2段階杯移植の成績が上がった時期があったようですが、日本産婦人科学会が原則として胚移植は1個にするというガイドラインを示してからは、この方法はあまり使われなくなっているようです。

自然妊娠の時には、受精卵が母体に送る信号によって子宮が受精卵を受け入れる準備をします。

実は、それと同じものを、体外受精の受精卵が培養液に送っていることが発見されました。

そこで、培養液を胚移植の前に子宮に注入することで、子宮に着床準備をさせて、その後で胚移植を行うという方法が開発されました。これが、シート法(SEET法)です。

2段階胚移植では多胎妊娠のリスクがありましたが、シート法ではこの方法が回避できるわけです。

また体外受精や顕微受精の際の胚移植方法として、より自然妊娠に近い胚移植として考え出されたものがギフト(GIFT)法とジフト(ZIFT)法です。

ただ最近では、シート法の普及などにより、実施しているクリニックが少なくなっているようです。

体外受精や顕微受精では、精子と卵子を人為的に受精させて、その後に受精卵を子宮内に胚移植します。

しかし自然妊娠では、精子と卵子は卵管内で受精をして、その後で子宮に移動してきますから、体外受精や顕微受精の方法は明らかに自然妊娠とは受精環境が異なります。

そこでより自然な受精環境を作り出すために、精子と卵子を「卵管内で受精させる」方法をギフト法と言います。

採卵した卵子と精子を混ぜ合わせて、腹腔鏡か子宮鏡を使い細いチューブで卵管内に移すわけです。

この場合、受精が自然妊娠と同じように卵管内で行われます。

本来の受精場所で精子と卵子が出会いますから、受精卵にとっては体外受精よりも、良好な環境になりますよね。

ただお腹を数か所切る手術になるため、1日程度の入院が必要です。

通常の体外受精よりも妊娠率は上がるようですが、複数の卵子を卵管内に移植するために、多胎妊娠のリスクがある点は注意が必要です。

ギフト法が受精を確認しないまま精子と卵子を卵管に移植したのに対して、ジフト法(ZIFT法)は、受精度1日培養して、受精を確認してから卵管に移植します。

そのためギフト法よりは自然妊娠の形からは遠ざかりますが、妊娠率は上がります。

体外受精では受精卵を子宮に胚移植するんですが、ジフト法では卵管内に移植します。

受精卵は、本来卵管で細胞分裂しながら子宮に移動するわけですから、ジフト法の方が通常の体外受精よりも、より自然な形に近づくことになります。

~胚移植後の過ごし方~

胚移植後については、普段通りに過ごすのが一番。

リラックスしてストレスがたまらないように努めるのがベターですが、絶対にやってはいけないことも少しだけあります。

胚移植をすると、子宮の上に胚がちょこんと乗っているイメージを持ってしまうので、振動を加えたら動くんじゃないか?

滑り落ちて子宮の外に出てしまうんじゃないか?

などと考えて、どうしても行動は慎重になりがちです。

実際には胚移植をした後、受精卵の透明帯を破って外に出た胚は、子宮内膜の上に着地後、子宮内膜を溶かすようにして根を張りながら、子宮内膜の内部に潜り込んでいきます。

だから、日常生活で起こりうる振動や刺激で、移植された胚が子宮から滑り落ちるようなことはありません。

ですからジョギング・テニスなどの運動や、自転車、買い物、重いものを持つ・・・などをしても、それが理由で流産するようなことはありません。

流産してしまう理由の多くは、卵子または精子の染色体異常です。

胚移植後の日常生活で何かをしたからと言って、それが原因で流産するというのは基本的にはありません。

しかし、胚移植後に、絶対にやってはいけないことも少しだけあります。

胚移植後の喫煙は禁止です!

母体にも胎児にも悪影響を及ぼすようなことは避けないとなりません。

喫煙は妊娠の最大の敵で、受動喫煙でも害がありますから、必ず夫婦で禁煙に取り組むようにしましょう。

胚移植後のお酒もほどほどに、過度な飲酒はホルモンバランスを崩しかねません。

適量の飲酒であれば、それが原因で流産するということはないようです。

また、これはクリニックによっても多少違うようですが、妊娠判定日までは、夫婦生活は避けるように指示されるところが多いようです。

精液中にプロスタグランジンという物質が含まれていて、それが子宮を収縮させる働きがあり、セックスという行為そのものも子宮収縮を促してしまうためというのも理由の一つです。

胚移植後はとにかく普通に過ごし、ストレスをためないのが一番です。

心身のストレスは自律神経を乱して、ホルモンバランスを崩すことにつながります。

リラックスして普通に過ごし、あえて気を付けるべきことがあるとすれば、

●体を冷やさない

●栄養バランスに気を付ける

●睡眠時間を確保する

など、妊活の基礎でおすすめしたことを続けるだけです。

母体に良い事は胎児にも良い訳ですから、出産までのことを考えればケアすべきことには違いありません。