⑤胚移植

培養した受精卵を、女性の体に戻すことを胚移植と言います。

胚移植のためにはもちろん通院をしないとなりませんが、胚移植そのものは5分程度で終わり、その後長くても数時間休めば帰宅できます。

子宮内膜が薄い人は、受精卵が上手く着床できるように黄体ホルモン製剤の注射をしたり、飲み薬を渡されたりすることがあります。

黄体ホルモンの注射をする場合は、その後で何回か通院する場合もあるようです。

~胚移植についての詳細~

通常は8分割くらい分裂した段階までに、状態の良いものを1つ選び出して、女性の子宮に戻します。

原則としては、多胎妊娠を防ぐために胚移植する受精卵は1つに絞られます。

状態が良いものが複数個ある場合は、一部を凍結保存しておいて次回のために残しておくということもできます。

受精卵を凍結したものを「凍結胚」と言い、凍結胚を移植することを「凍結胚移植」と言います。

卵子は老化しますから、若いうちに受精卵を凍結保存しておいて、数年後に使用するというケースもあるようですね。

体外受精や顕微受精で出来た受精卵を、いったん凍結するのは次のようなケースです。

●状態の良い受精卵が複数個出来た

●最初から採卵周期には、胚移植しないことを決めている

状態の良い受精卵を全て胚移植してしまったら、多胎妊娠してしまうリスクがあるため、一番良いものだけを胚移植し残りは凍結保存して、今回ダメだった場合や、二人目、三人目が欲しい時に胚移植できるよう、凍結保存しておくことが出来ます。

日本産婦人科学会では、多胎妊娠を防ぐために、原則として胚移植する受精卵は1個と定めています。

また体外受精や顕微受精を行った場合、ほとんどのケースで、排卵誘発剤を使って卵巣を刺激する方法を取っています。

ホルモン分泌を無理にコントロールしているわけですから、女性の体のホルモンバランスは良いとは言えない状態になっています。

ということは採卵して受精した周期に女性の体に胚移植しても、受精卵が順調に着床して妊娠を継続できる可能性は低くなります。

そのため、最初から採卵・受精した周期には胚移植せず、受精卵をいったん凍結保存して、女性の体の状態を整えてから胚移植するという方法もあります。

~凍結胚移植のメリット~

●最適な時期に胚移植できるので、妊娠率が上がる

●毎回採卵をしなくてすむので、苦痛・負担の軽減ができる

 体外受精で一人目⇒二人目の時の使用も可能

●若いうちに老化していない卵子で受精させておけば、後々の心配が軽減される

なかでも、妊娠率が上がるのは魅力的で、安定したホルモン環境を人為的に整えてから胚移植が出来れば、妊娠率は確実に上がります。

日本産婦人科学会の資料によると、胚移植あたりの妊娠率は、体外受精が26.4%、顕微受精が28.3%なのに対し、凍結胚移植は32.1%とかなり高くなっています。

また、採卵回数を減らせるメリットも大きいですね。

採卵するためには、排卵誘発剤や排卵促進剤で卵巣を刺激しないとならない場合が多く、これによってOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を発症するケースがあります。

OHSSは、悪化すると非常に危険な症状なので、卵巣への刺激は少ないに越したことはありません。

~凍結融解胚移植の方法~

さて一旦凍結した胚を移植するためには、凍結胚を溶かして、それから移植をする必要があります。

このことを「凍結融解胚移植」と言います。

この凍結融解胚移植をするためには、女性のホルモンバランスを考えて最適な時期を選ぶ必要がありますよね。

この「最適な時期」を選ぶための方法は全部で3つあります。

1.薬を使わず、自然にやってくる排卵のタイミングで胚移植する

2.排卵誘発剤を使って、人為的に排卵周期を作り出す

3.ホルモンを補充して、子宮環境を整えてから移植する

クリニックによって、また患者の状態によって、どの方法を使うかは変わります。

ただ一般論としては、1の方法だと正確な排卵日の決定が難しく、2の方法だとOHSSのリスクや、クロミフェン製剤によって子宮内膜が薄くなるリスクもあるようです。

3のホルモン補充による方法が最も確実性があるようですし、身体的リスクも少ないようです。

~凍結胚はいつまで使えるのか?~

凍結胚は、基本的には半永久的に使用できます。

そのため一旦凍結しておけば、あとは自分の都合を医師に伝えて、スケジュール調整が出来ます。

ただし凍結保存をした受精卵は、永久に保存されるわけではありません。

毎年(病院によっては2年ごと)、保存を更新するかどうかの確認が病院から入るので、その時点で希望しなければ廃棄されます。

また女性が閉経した場合や、婚姻関係が解消された場合は、その時点で廃棄されることにもなっています。

ちなみに、8分割よりもさらに分裂が進んで胚盤胞という状態になってから胚移植を行う方法もあります。

この場合は通常よりも妊娠率が高くなるので良いのですが、そもそも培養器の中で、受精卵を胚盤胞まで育てるのはとても難しいため、リスクも伴います。

なお、胚移植の成功率をより高めるための方法としてアシステッドハッチング、シート法、ギフト法、ジフト法などの処置法があります。

オプションで選ぶことが出来るようになっている病院が多いようです。