~不育症とは?~
赤ちゃんを望んで妊娠しても、全妊娠のうち約10~20%は流産に至るといわれています。
自然流産は偶発的な染色体異常が原因で起こることが多く、一度流産をしても次の妊娠で元気な赤ちゃんを出産することは可能です。
しかし、妊娠しても流産を繰り返してしまう場合があり、この状態を「不育症」といいます。
今回は不育症について、不妊症との違いや原因、治療法などをご紹介します。
不育症とは「妊娠はするものの流産や死産を繰り返して、赤ちゃんを持つことができない状態」をいいます。
流産を2回続けて繰り返すことを「反復流産」、3回以上続けて繰り返すことを「習慣流産」と呼び、不育症とほぼ同じ意味で使われます。
ただ不育症は流産だけではなく、妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡も含み、より広い意味で使われる言葉です。
不育症の場合、妊娠できたとしてもたびたび流産や死産を繰り返します。ただし、流産や死産を繰り返すのは偶発的なもので、不育症の80%以上の人が出産することができるといわれています。不育症は妊娠には至るため、妊娠することができない「不妊症」とは異なるものです。
不育症になったら、妊娠・出産ができないということではありません。
~女性の年齢が高くなるほど、流産もおこりやすくなります~
年齢と流産率の関係をみてみると、10代から30代前半まではほぼ横ばいで、35歳になると20%、そして、それ以降急上昇し、40歳で40%、42歳で50%に達し、42歳超えると80~90%と言われています。
これは女性の年齢が高くなるほど、流産の主な原因である染色体に異常のある卵子が排卵される割合が高くなるからだと考えられています。
冒頭でお話しした通り不育症とは『妊娠しても、流産を繰り返す病気のこと』です。
一方、異常がないのにもかかわらず、不運にも流産を繰り返してしまうことだってあるわけです。
ここを正確に理解しておくことがとても大切だと思います。
なぜなら、それらを混同してしまうと、過度の不安を抱え込んでしまったり、不要な検査や治療を受けてしまうことになりかねないからです。
~流産には2つの種類があります~
1つは、流産を引き起こす病気があり、そのために本来ならば生まれてくるはずの赤ちゃんが妊娠の途中で失われてしまうというケース。
もう1つは、おこるべくしておこる流産です。つまり、染色体異常などの問題が胎児側にあるケースです。
前者の”病気が原因で”流産が繰り返されるケースが不育症なわけです。その原因を突き止め、しかるべき治療を施す必要があります。
もしも、後者の”起こるべくして起こってしまう”流産であれば、たとえ繰り返しおこったとしても、治療の施しようがなく防ぎようがありませんし、防ぐ必要もないと言えます。
~不育症の検査について~
一般的には、2回続いたら検査を受けるように勧められています。
ただ実際には、流産が2回続いたとしても不育症であるケース、すなわち、何らかの異常が隠れているケースのほうが圧倒的に少ないわけで、年齢的に35歳以下で、膠原病などの自己免疫疾患など、流産を引き起こす可能性のある病気などがなければ、それほど神経質に考えなくてもいいのかもしれません。
~不育症検査の結果の受け止め方について~
実際のところ、不育症の検査を受けても、必ずしも原因が判明するとは限りません。
厚生労働研究班による不育症のリスク因子別の頻度では、原因不明が65%とされています。
検査を受けても何も異常が見つからない場合、どのように受け止めればいいのでしょうか?
それは、「原因不明の不育症」ではなく、「偶発的に流産が繰り返された」たまたま、不運にも続いただけと受け止めるべきではないでしょうか。
もしも不育症の検査で原因が見つからなければ、自信をもって、次の妊娠にチャレンジすべきでしょう。
~不育症の原因は?~
流産する原因のほとんどは受精卵の染色体異常で、不育症では妊娠するたびに偶然が重なって、流産や死産を繰り返すと考えられます。
しかし場合によっては、流産を繰り返すリスク因子を自分やパートナーが持っていることがあり、具体的には以下のようなリスク因子があります。
○夫婦染色体異常
夫婦のうちどちらかが染色体異常を持っていると、流産になることがあります。厚生労働省研究班のデータによると、不育症の4.6%が夫婦染色体異常によって起こっています。
○子宮形態異常
子宮形態異常とは子宮奇形とも呼ばれ、子宮の形が通常とは異なる状態のことをいいます。子宮形態異常には、子宮がハートの形をしている双角単頚子宮や、子宮底部が少し窪んでいる弓状子宮などがあります。厚生労働省研究班のデータでは、子宮形態異常による不育症は全体の7.8%を占めています。
○内分泌異常
ホルモンに異常があると黄体機能不全や高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、糖尿病などの内分泌疾患になり、流産の可能性が高まるとされています。
○免疫異常
自己免疫疾患(抗リン脂質抗体症候群など)になると、免疫の矛先が自分自身に向き、流産のリスクが上がってしまいます。
○血液凝固異常
抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症などで血栓ができやすくなり、不育症の原因となります。
以上のようなリスク因子で流産や死産が引き起こされる場合がありますが、詳しく検査しても原因が分からないものもあります。ただ、原因が分からなくても次の妊娠で出産できる可能性もあるので、悲観的にならずに医師と相談しながら治療にあたることが大切です。
~不育症の治療方法は?~
不育症の治療を行うには、何が原因で起こっているかを調べる必要があります。問診や診察から原因は特定することは難しく、染色体検査や子宮形態検査、
内分泌検査、凝固系検査などさまざまな検査を通して原因を探ることになります。
原因が分かった場合は、それぞれの原因に合わせて、以下のような治療法や対処法が行われていきます。
■夫婦染色体異常の治療
染色体異常に対しての根本的な治療法はありませんが、染色体異常があっても出産に至ることはできます。
出産の可能性については染色体異常の種類により異なるので、臨床遺伝専門医から正確な情報を得たうえで、夫婦でよく話し合う必要があります。
■子宮形態異常の治療
子宮形態異常が必ず流産を引き起こすわけでもなく、また健康に直接害を及ぼすこともないので、絶対に治療しなければいけないというわけではありません。子宮形態異常の治療は基本的に手術で行いますが、手術が必要かについては医師とよく話し合うようにしましょう。
■内分泌異常の治療
甲状腺機能異常や糖尿病などの内分泌異常による疾患は、医師の指示のもと薬物療法や食事療法を行って、治療していきます。
■血液凝固異常の治療
血液が固まってできる血栓が起きないようにするために、アスピリンの服用薬やヘパリンの注射を必要に応じて使用します。
【不育症を乗り越えるには心のサポートが大切】
不育症と診断されても、出産にいたる可能性はあります。ただ、流産や死産を繰り返すことは、精神的に相当なストレスになってしまいます。
不育症のリスク因子に対する適切な治療と同時に、夫婦で協力しながら心のケアも行っていきましょう。
不育症を乗り越えるには、パートナーや家族の支えも必要です。
つらい気持ちを一人で抱え込まずに、周りの人と共有しながら、前向きに不育症と向き合っていけるといいですね。